秋の猫
2006年 02月 04日

藤堂 志津子 / 集英社
スコア選択: ★★★★★
30代、独身女性。結婚への理想が高く、自尊心も高い。かといって自分には何も誇れるものやキャリアもない。30代になって見についたのは打算する力だけ。
そんな彼女達の毎日の生活に入り込んでいるのは、ペットとして飼った猫や犬。自分を心から求めてくれる存在、見返りのない愛情を注ぐことができる存在。そんなペットが彼女達の生き方、考え方に少しずつ変化を与えてくれる。
表題の「秋の猫」では、2匹のうち1匹の猫、ミミがどうしてもなつかない。顔も態度も可愛げがなく、食べ物だけには強欲で。どうしても兄弟猫ロロの可愛さ、甘え方、賢さに比べてしまう。
主人公はノイローゼになりかかるのだが、結局気がついたこと。ミミとは自分自身なのである。ミミに必要だったもの、今まで主人公が得えなかったもの。それは揺るがない愛情だったのだ。
それに気がついた主人公は、ミミとの関係を取り戻すことが出来る。同時に、ミミである自分をも愛することができるようになるのだ。
どの女性も、全く持って計算高く、すんなり共感できたり応援したくなるような女ではない。そこに登場するペット達の無垢な姿が対比となっている。一途な愛、見返りのない愛、献身的な愛。今の世の中では、男女間でこれらの愛を求めたり求められたりすることはとても難しい。難しすぎて、自分の気持ちや行動を縛り付けてしまうことになってしまう。
しかし、ペットから教わった「無条件の愛」。それが頑なになった心を少しずつ緩めていく力となるのだ。
猫の話2編、犬の話が2編、そして最後に猫と犬が両方の話が1話。どれも苦笑できて、そしてほんのりと涙が出てしまう話です。
by unilog
| 2006-02-04 00:37